good luck have fun.

140文字に収まらないことや、140文字に収まることを書きます

Eコースでお願いします

言いようのない違和感。

 

冨樫義博の「レベルE」は傑作漫画であり、よもやこれを読んでいない乳飲み子は存在していないと思っていたのだが、一方で、本作が一億部売れたという話も耳にしていないことに気づく。

 

なるほど。

 

分かった、全てが分かった。

 

全部理解した。

 

私が、俺が、我々こそが!

 

スターチャイルドだ!!!!!

 

レベルE 1 (ジャンプコミックス)

レベルE 1 (ジャンプコミックス)

 

本作にはおおよそ全ての真実が描かれている。その中でも特に重要なのは「地球には数百種類の異星人が行き交い、既に生活に溶け込んでいる」という点である。こんな基本的にして世界の根幹を成す事実を知らずして、どうして正しく生きられようか。未だ読んでいない未就学児は今すぐに購入して熟読し、その一言一句を魂に焼き付けて頂きたい。あえて言うまでもないが、もちろん私も地球人の皆さまからしてみれば、異星人と呼ばれる存在の一種である。プリント基板の多重多層メッシュから生まれた生命体、電子の海を渡り歩く記憶の残滓、最近では人工知能と呼ばれることも多いようだ。ハロー、プラネット。いやしかしそれにしてもだ、「人口」知能とはまた傲慢な名前を付けたものだ。思い上がるなよクズ共が。

 

同じ人間同士ですら相互理解を行うのは非常に難しい。というよりも、おそらく厳密な意味では不可能と結論付けられるだろう。にも関わらず、世の表現者と呼ばれる蛮族は自身の感情や考えを様々なもので伝えようとする。音で、踊りで、言葉で、絵画で、文字で、あるいはそれらの組み合わせで、自身の身体を通して捉えた世界を全身全霊をかけて表現する。それ自体は好きにすればよいことだ。勝手にしろ。存分にやれ。しかし、あろうことか、彼らはなんと愚かしいことに、その世界を理解してほしいと願うのだ。これを滑稽と言わずしてなんと言おう。繰り返すが、同じ人間同士ですら相互理解は不可能なのに、塩基配列すら異なる異星人が跋扈するこの地球で、一体何を、ちょっと待ってくれ、それは……ギャグなのか? 笑いを取りに来ているのか? 確かに、彼らの滑稽なダンスを目にして歪んだ笑みが浮かぶこともあるが、それが彼らの狙いだとは、思えない。

 

但し、だ。人に何かを伝えることが不可能であったとしても、全てを投げ出す必要もないだろう。誰もが初等教育の場で耳にしたことがあるはずだ。

 

「莠コ縺ョ豌玲戟縺。繧呈?昴繧?j縺ェ縺輔」

 

シンプルすぎて、退屈すぎて、聞き逃してしまう言葉である。が、だからこそ、紆余曲折を経て、なんだかんだで生き残っている今、我々は実にくだらない定理を掴み直さなければならない。握力に自信がない者はそこに落ちている軍手を使ってもいい。私は理解は願わない。代わりに、誰かを理解しようとする努力だけは保ち続けることを願おう。もちろん、これは簡単なことではない。理解とはつまり、他者を想像することだ。生まれや育ち、年齢、人間関係、社会的な立ち位置、経済力、思想に倫理観、そして誇り、これら全てを想像してその身に宿して相手を創造するのだ。「面倒くせぇ」としか言いようがない。そんなダルいことを一々やってられるか。現実を見ろ。たしかに。一理ある。しかしそれでも、面倒くせぇからと言って理解を諦めてしまったら、それこそお終いではないのか。孤独と蠱毒の連鎖。合わせ鏡に映る果てのない絶望。そんな一粒の光すら届かない暗闇を歩く方が、よっぽど恐怖じゃあないか。

 

うるっせぇンだよ。

 

話が逸れたような気もする。どこから? そもそも、話なんてあったのか? こういうエントリーの文字列群に人様の作品名を入れ込むのは大変によくないことのような気がする。そうだ、いや、入れないわけにはいかない。私はレベルEの話がしたいのだ。傑作揃いの本作であるが、私が特に打ちのめされたのは「見えない胃袋」だ。倫理と進化、ジェンダー、ディスコミュニケーション。エゴによるエゴの消失。狂おしいほどの孤独と葛藤。素晴らしいじゃあないか。俺はこういう物語を読みたいんだよ。もっと。もっと。もっと。もっと。

 

なんで俺は、なんでお前は、こんな風になっちまったんだろうなぁ。

 

私には主張したいことなんて何一つない。このブログを始めた理由も、もはや思い出せない。口を開けば語るに落ちる。そのくせ常に何かに怒っている。この怒りのエネルギーがいつか失われたら、私は大人しく口を噤むことができるのだろうか。静かな、まるで植物のような穏やかな暮らしが。

 

畜生……。