good luck have fun.

140文字に収まらないことや、140文字に収まることを書きます

夕食後の寝落ちから意識を取り戻すと、リビングの液晶テレビはOverwatchの個人配信を映し続けている。配信者は、かれこれ5時間以上はゲームを続けているようだ。寝入り前に記憶していた高いテンションは影を潜めてすっかり口数が減り、頓死に何のリアクションも示さなくなった彼女のエイムは冴え切っていた。偏差射撃が必要なプロジェクタイルのスリープダーツは、まるで0.数秒後の未来が見えているかのように敵キャラクターに吸い込まれていく。視界の端に一瞬映った敵にスリープダーツを打ち込んで眠らせ、阻害瓶を投げ入れて体力回復を妨害し、仲間と共にエリミネートする。当たり前に行われる一連の動作は限りなく無駄がなく滑らかで洗練されていた。

 

外はしんとしていて雨は止んでいるらしかった。オンラインストアで注文した書籍がポストに届いているはずだ。玄関のドアを開けると雨上がり特有の緑の成分を濃厚に含んだ大気が充満しており、それは何よりも贅沢なもののように思われた。肺の隅々までを土と草で満たすことがこの上なく快感だった。その匂いは集合住宅の共用スペースに作られたあまり手入れをされることがないほんの僅かな庭から発生している。建物の構造上、見ようとしなければ見ることがない、そもそも存在することを意識することのないそれは、やはり確かに存在していて、不意に人間に原始的な感動を与える。存在していようがいまいが、誰がどう認識しようが、そんなことは本質的な問題ではないのかもしれない。